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特効薬

今日の塾の授業の合間に職場のW先生が
「○○君、今どうしているかなあ。」
とふとつぶやきました。

その子は随分前に塾をやめてしまったのですが、
全く塾の宿題をやって来ませんでした。
毎週水曜日には、漢字の小テストをすることにしていて、
他の子はある程度準備してくるのですが、
彼はまともに準備してきたことがありません。
いつもほぼ0点です。
塾もしょっちゅう休みます。
決して力のない子ではなかったのですが
結局「成績が上がらないから」という理由で辞めてしまったのです。

彼が塾を辞める前に
彼のお母さんと話をしたことがあります。
私は彼のことが心配で家に電話をしたり、
成績表にメッセージを書いたりもしていたのですが、
電話はつながらず、メッセージにも反応がなく、
たまたま塾へ彼を迎えに来たところで話をしたのです。

それからしばらくして、彼は塾を辞めてしまったので、
彼のお母さんと話をしたのはその一度きりです。

欠席が多くては授業内容についていくのが難しいということ。
家での宿題を全くしないこと。
テスト前のテキストの復習をきちんとして欲しいこと。
そういうことを話して、
そして、「きちんとやれば必ず力がつく」とも話しました。

それに対してお母さんは
学校の宿題が多いので塾の宿題は出来ないし、やらせる気も無い。
他の習い事(合気道だったと思います。)があるので、これからも塾は休む。
ということを言われた上でこういわれました。
「お金を払って塾に入れているのに、なぜ成績が上がらないのか?」と。

他の子供の保護者なら「申し訳ありません」と謝ったと思います。
私の仕事は「授業をすること」ではなく「成績を上げること」ですから。
でも、彼の場合、「ロクに塾に来ない。」「宿題もしない。」で、
そのことを保護者が公認しているわけですから、
正直言って為す術がありませんでした。
こんな状態で子供が塾に対してやる気になるとは思えません。
(もちろん指導者としてはそうしなくてはいけなかったと思うのですが…。)
それでいて、「なぜ成績が上がらないのか?」と言われたのにはとても悔しいし、
腹が立ったのを覚えています。

一年ほど前に、私のHPにその出来事を載せていました。(今は削除しています。)
一年前の私は「そんな魔法があるなら教えてくれ。」と思った。と書いています。
今も同感です。
あの状態で彼の成績を伸ばしてやるというのは、「魔法」の領域の話だと思います。
「お金を払っているんだから」と言われても
「お金」では成績は買えないのです。

この出来事に限らず、「お金を払っているんだから…」というようなことは
私自身もつい思ってしまうことです。
お金さえ出せばどんなことでも解決するという風潮があるし、
世の中便利になったから、今まで出来なかったことが簡単に解決するだろうとつい思ってしまいます。

お金さえあれば、おいしいものが食べられる。
お金さえあれば、ぜいたくができる。
そうかもしれませんが、当然ながらお金ではどうにもならないことがあります。

自分が楽をしたいがために、自分が抱えている問題に「特効薬」を求めてしまう。
そんなところが私自身にもあります。塾の生徒達にもあるようです。

今日も社会科で北朝鮮の「拉致問題」について触れたら、
「先生、拉致問題ってどうやったら解決するの?」
と聞かれました。
「それはよくわからない。それを私が知っているくらいなら、もう解決している。」
と言いましたが納得してくれません。
それからも何度も聞いてきます。
「先生なんだから、知っているのがあたりまえでしょ」というのです。
きっと自分が納得できるような簡潔な答えを期待していたのでしょうが、
世の中には解答の無い問題もあります。
結局、他の生徒が「もういい加減にしろ。」と言うと
その子は引き下がりました。

その子に限らず、そんなことは今の世の中ではよくあるように思います。
簡単に解決できないことについて深く考えたり、悩んだりせずに
簡単に答えをだしてそれで済まそうとする。
簡単に解決できないとあきらめる。
そんな世の中なんでしょうか?


小4のテキストの論説文に
「今の世の中はなんでもインスタントだ。」と書いてあったのが
今はとてもリアルに感じます。
by soul_doctor2005 | 2006-09-13 00:01 | 塾の仕事を通じて
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